『万葉集』中、ヤマブキをよむ歌
→ヤマブキ
長歌
うつせみは 恋を繁みと 春まけて 念(おも)ひ繁けば
引き攀ぢて 折りも折らずも 見る毎に 情(こころ)なぎむと
繁山の 谿べに生ふる 山振(やまぶき)を 屋戸に引き殖ゑて
朝露に にほへる花を 見る毎に 念ひは止まず 恋し繁しも
反歌
山吹を 屋戸に殖ゑては 見るごとに 念ひは止まず 恋こそ益れ
(19/4185;4186, 大伴家持「山振の花を詠む歌」)
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短歌
(天平勝宝6年)三月十九日、家持の庄(たどころ)の門の槻(つき)の樹の下に
宴飲する歌二首 |
やまぶきは な(撫)でつつおほ(生)さむ ありつつも
きみ(君)き(来)ましつつ かざ(挿頭)したりけり |
右一首、置始連長谷(おきそめのむらじはつせ)。 |
わがせこ(背子)が やど(宿)のやまぶき さきてあらば
や(止)まずかよ(通)はむ いやとしのは(毎年)に |
右一首、長谷 花を攀じ、壷を提げて到来る。是に因りて、
大伴宿禰家持 此の歌を作り、之に和す。
(20/4302;4303) |
かはづ鳴く かむなび河に かげ見えて 今か開くらむ 山振の花 (8/1435,厚見王)
山振の 咲きたる野辺(ぬべ)の つぼすみれ 此の春の雨に 盛りなりけり
(8/1444,高田女王)
山振の 立ち儀(よそ)ひたる 山清水 酌みに行かめど 道のしらなく
(2/158,高市皇子尊)
うぐひすの き(来)な(鳴)くやまぶき うたかたも きみが手ふれず はなちらめやも
(17/3968,大伴池主)
やまぶきの しげ(繁)みと(飛)びくく 鶯の こゑを聞くらむ きみはとも(羨)しも
(17/3971,大伴家持)
やまぶきは ひ(日)にひ(日)にさきぬ うるはしと
あ(吾)がおもふきみ(君)は しくしくおも(思)ほゆ (17/3974,大伴池主)
さけりとも し(知)らずしあらば もだ(黙)もあらむ このやまぶきを みせつつもとな
(17/3976,大伴家持)
山吹の 花執り持ちて つれもなく か(離)れにし妹(いも)を しのびつるかも
(19/4184,大伴家持)
妹に似る 草と見しより 吾が標(し)めし 野辺の山吹 誰か手をりし (19/4197,大伴家持)
かくしあらば 何か殖ゑけむ 山振の 止む時もなく 恋ふらく念へば
(10/1907,読人知らず)
やまぶきの 花のさかりに かくのごと きみをみ(見)まくは ちとせ(千歳)にもがも
(20/4304,大伴家持)
山振の にほへる妹が はねず色の 赤裳のすがた 夢に見えつつ (11/2785,読人知らず)
花咲きて 実はならねども 長きけ(日)に 念(おも)ほゆるかも 山振(やまぶき)の花
(10/1860,読人知らず。実がならないとあるので、ヤエヤマブキであろうという)
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